分科会

 本会議において活動の中心となる分科会は7つ設けられており、日米各4名の参加者が議論を重ねます。事前活動では自主的に定期ミーティングを開き議論を重ねるほか、各自の興味に沿い、その分野の第一線で活躍されている方々のもとを訪ねます。本会議中もフィールドトリップで関連機関や専門家を訪問するなど、議論の質の向上を目指す努力が続けられます。以下が第78回日米学生会議における7つの分科会テーマです。

国際政治 International Politics

 現代の国際政治は、協調と対立が複雑に交錯する転換期にある。大国間競争が国際秩序の安定を揺るがすなかで、政治的リーダーシップと外交的対話の重要性はかつてなく高まっていると言える。ウクライナ戦争や中東情勢の緊迫化、東アジアの不安定化などにより、各国は理念と現実のはざまで難しい舵取りを迫られ、経済安全保障や気候変動といった非伝統的課題も国際関係の中核に浮上している。このような時代において、日米協力は世界秩序の維持と再構築に不可欠である。終戦から 80 年、そして米国建国250 年という節目を迎えるいま、両国はいかに民主主義、法の支配、人権といった普遍的価値を基軸に責任を果たすかが問われている。本分科会では、こうした国際環境の変化を踏まえ日米が果たすべき政治的役割と協力の在り方を多角的に議論する。国際政治を中心に据えつつ宇宙やサイバー、経済安全保障などの新たな分野にも目を向け、未来志向の対話を通じて相互理解と信頼の深化を目指す。

 

資源と自然・社会 Managing the Environment and Natural Resources

 有史以来、人類は自然界に存在する資源を多様な形態で利用することにより活動領域を拡大してきた一方、その過程は賦存量や技術、社会構造など様々な要因による制約を受けてきた。現代において、それらの課題は国家、企業、地域社会といった多様なレベルで顕在化している。しかし、私たちの社会が自然との相互作用による生産活動を基盤としている以上、その利用を止めることは不可能であり、世代や各アクターの利害を超えて、公正かつ持続可能な方法で自然を利用するための合意形成が図られなくてはならない。本分科会は、そのような均衡をいかに構築し得るかを様々な分野の知見を基に考察する。一例を挙げると、資源の利用と管理を規定する政策や制度設計については政治学や経済学等の視点が重要である。また、持続可能な資源利用のための技術的アプローチについては工学や環境学、農学等理系分野の知見が不可欠である。さらに、文化的・歴史的視点は人類が自然をどのように受容してきたか、そしてそれらが人類の意思決定にいかなる影響を及ぼしているかを理解するために必要である。資源と自然について、学問分野の枠を超えて多角的な議論を行う意志を有する参加者を歓迎する。

 

分断の時代のアイデンティティとコミュニティ Identity, Community & Polarization

 

 政治の混乱と拡大する経済格差が、世界各地で社会の分断を生んでいる。人々の孤独が深まる現代において、分極化とアイデンティティ政治は、怒り、偏見を用いた権力闘争、そして暴力を伴う対立を生み出す。その一方で、違いを乗り越えた率直な議論は、コミュニティ構築と社会における帰属意識の醸成に寄与するだろう。
 参加者は日本とアメリカにおける孤独と分断の原因に焦点を当てる。本分科会では個人の経験とアイデンティティを軸に、共靭(Resilience)さが相互理解をもたらす瞬間を追求する。議論されうるトピックとしては、個人や集団のアイデンティティが市民参加や共同体形成にどのように影響するのか、どのような政治的・社会的変容をもたらすのか、などがあげられる。幅広い分野から多様なバックグランドを持つ学生を歓迎する。

 

研究・産業・社会を貫くイノベーション Innovation and Technology -Innovation across Research, Industry and Society-

 科学は本来、知の探究という独立した営みであった。しかし、科学技術の発展に伴い、科学は社会の構造や人々の生活を大きく変え、その実践も社会の価値観・制度・文化・経済から深く影響を受けるようになった。環境、エネルギー、資源などの地球規模の課題が顕在化する現代において、イノベーションは持続的発展を支える不可欠な手段となっている。
 日本と米国では、研究資金の構造、大学研究の在り方、社会実装の経路が大きく異なる。日本では公的資金が中核を成し、大学は基礎研究を中心に安定的な研究基盤を築いてきた一方で、課題とされてきたリスクテイクや迅速な社会実装への取り組みが進む中で、研究の性質が変化しつつある。米国では、産学連携や知的財産収入など多様な資金源が研究を支え、社会実装が加速しているが、成果偏重や格差拡大といった課題も抱えている。こうした制度の違いは、研究文化や人材育成に影響し、科学の方向性を形づくっている。
 また、日米両国で基礎研究費が絶対的・相対的に縮小傾向にあり、イノベーションを支える基盤の弱体化や研究の自由の制約といった問題も見逃せない。
本分科会では、科学を社会と共に未来を形づくる営みとして再考し、持続可能な未来を築くための道筋を探求することを目的とする。その上で、イノベーションの推進に向けて各機関がどのように貢献していくべきかについて、異なる学問的背景を持つ参加者同士の対話を通じて議論する。

 

報道とメディア News and Media

 デジタル時代が到来した現代、インターネットにより私たちは世界へ情報を手軽に発信できるようになり、同時に世界中の情報を受信することも可能になった。これにより、これまで社会に届きにくかった声が広く共有されるようになった。例を挙げると、BlackLives Matter や#MeToo などの社会運動は、今まで抑圧されていた当事者の視点を社会的な議論へと押し上げる役割を果たした。一方で、ネット空間は誤情報や偏向報道など、社会の分断を深める危険性も抱える。また、言論の自由は基本的人権であり民主主義の要だが、誤解を招く情報や虚偽を拡散することで、他者を抑圧したり、価値観やアイデンティティを毀損する手段にもなり得る。本分科会は、政治学、社会学、法学、哲学など様々な視点から、メディアと報道、そして社会正義との関係性を考察する。多様な声をどう受け止め、伝えるか。生成AI や誤情報が政治運動や個人に与える影響、そして情報発信における報道機関・個人・社会倫理的責任など、日本と米国の制度や文化、歴史を比較し、これからの報道とメディアのあり方を模索する。

 

健康と革新 Health and Reform

 現代社会において、医療技術と科学の進歩は健康の概念そのものを拡張し続けている。一方で、生活習慣病の増加やメンタルヘルスの悪化、健康格差など新たな課題も顕在化している。健康はもはや病気の有無を超え、ライフスタイルや社会環境、価値観によって形成される複合的な概念として認識されつつある。一方、近年注目されるバイオデザイン(Biodesign)は、利用者中心の発想と革新性を結びつける医療機器設計の試みであり、生命倫理(Bioethics)は遺伝子編集やAI医療の領域で人間社会の限界と責任を問う。これらの分野は、医療を越えて健康を多角的に捉えることの重要性を示している。本分科会では、「健康と革新(Health and Reform)」を軸に、日米の制度・文化・価値観の違いを踏まえ、健康をめぐる対話を行う。日本は予防医療や国民皆保険など「健康を守る仕組み」を築き、アメリカは研究資金とスタートアップ文化を背景に医療革新を牽引してきた。両国は「制度」と「技術」という異なる強みを有し、世界の医療を支えている。2026年、パンデミックから6年、SDGs目標達成年まであと4年の今、技術革新が健康と幸福をいかに支えるかを共に考える。

 

芸術と文化形成 Arts and Cultural Reflection -Shaping Culture through Artistic Mediums-

 現在、私たちはAI による芸術生成の進展、戦争や社会的分断の深刻化、歴史の語り方や文化的記憶をめぐる対立など、文化そのものの意味が問われ直される時代に生きている。グローバルな対話が叫ばれる一方で、言語や歴史的背景の違いにより、他者や他文化への「深い理解」は一層困難になっている。こうした状況の中、芸術は国家・言語・専門領域を越えて人々をつなげる共通言語であり、時に社会を動かすソフトパワーともなり得る。そして芸術は単なる文化の「反映物」ではなく、文化を能動的に形づくる力そのものでもある。本分科会では「文化は芸術を生み出し、芸術もまた文化を形成する」という双方向的な関係に着目し、絵画、映画、音楽、建築、デザイン、文学、マンガなど多様なartistic mediums(芸術的媒体)を通して、この循環構造を横断的・比較的に読み解いていく。芸術は何を語り、どのように文化的価値観や社会構造を表現し、あるいは再構築してきたのか? そしてそれは分断を超えた対話や、新たなアイデンティティの創出にどう関与し得るのか?参加者の専門性や関心を活かしながら、芸術を通じた社会的変革の可能性を模索する。