本会議において活動の中心となる分科会は7つ設けられており、日米各4名の参加者が議論を重ねます。事前活動では自主的に定期ミーティングを開き議論を重ねるほか、各自の興味に沿い、その分野の第一線で活躍されている方々のもとを訪ねます。本会議中もフィールドトリップで関連機関や専門家を訪問するなど、議論の質の向上を目指す努力が続けられます。以下が第77回日米学生会議における7つの分科会テーマです。
産業競争力は経済成長の源泉である。日本は失われた数十年を歩み、その間、企業はコストカット型の経済の中で生産性を低下させ、競争力が低下したとされる。そして、日本はいま、世界のインフレ型経済で主流である事業の高付加価値化に回帰し、産業競争力を高めようと企図している。事業の高付加価値化戦略は、各企業が様々に努力を重ねている。他社の追随を許さない高度の技術開発を行ったり、ブランディングを強化したり、ロビイングを通して自社に有利なルールを形成したりと、非常に多様化している。また、各国政府も、自国の産業競争力を高めるため、補助金、規制緩和・強化、人的資本投資などを強化している。競合他社のみならず、上流・下流に至るまで多種のプレイヤーが現れ、競争環境が複雑化した現在の国際市場において、これらの手法を駆使して競争力を高めるためには、「戦略」が何よりも重要となっている。本分科会では、日米を中心に、企業のミクロな視点、政府のマクロな視点の両面から、実際に採られている戦略を分析し、競争力を高めるための道筋を考察することを目的とする。
私たちの食の選択は、社会にどのような影響を与えているのか。食生活は生命を維持し、健康で幸福な生活を送るために欠かせない営みである。また、食は文化の中心であり、社会のダイナミクスを反映する重要な役割を果たす。その重要性は文化、経済、政治、技術など、多方面にわたって人々の生活の質に影響を与えてきた。一方、近年孤食や肥満、健康格差といった問題が食を通じて顕在化している。本分科会では、食の選択がアイデンティティや価値観をどのように形成し、社会に波及するかを探る。さらに、日米の食文化を通してグローバル化や食の安全保障といった視点から、持続可能な食のあり方についても議論する。どんな料理にも、思い出、人とのつながり、共通の歴史の遺産があるだろう。それらの実体験をもとに対話を行い、多角的に物事の本質を捉える参加者を歓迎する。
世界が気候変動や環境負荷といった課題に直面するなか、パリ協定によって2050年カーボンニュートラルは世界共通の目標となった。各国が環境負荷の軽減とエネルギー資源確保の両立に苦慮している一方、民間企業や個々の起業家たちは気候変動対策や脱炭素化の流れを事業機会と捉え、世界にポジティブな影響を与えようと取り組んでいる。他方、革新的なアイデアであっても収益性を維持し、持続可能な事業へと発展させることは、依然として困難である。事実、2000年代前半の気候テックへの投資ブームは需要や競争力といった問題から縮小していった。しかし現在、環境・エネルギーに対する多額の投資政策を受けて、環境関連事業への投資が高まっている。1度目の失敗を踏まえ、民間セクターには新たな手法が求められている。本分科会では、環境・エネルギーという幅広い領域における民間企業および起業家の役割や課題、展望について現実の動向を踏まえて分析・議論することを目指す。
急速な科学技術の進展と、それに伴う倫理的・社会的課題の増大が深刻である。AI、 バイオテクノロジーなどの新興技術は、社会に革新をもたらす一方で、不平等の拡大など新たなリスクも生じさせている。たとえば、昨今遺伝子操作技術が注目を集めているが、技術の利用はどの程度倫理的に許容できるのか。また倫理面を考慮し、人間の超えてはならない一線を守る仕組みは技術者・民間企業で構築できるものなのか、または政府の関与を必要とするのか。このような問題意識を背景に、本分科会は各技術のもたらす倫理的課題について多角的な観点から議論し、その上で、技術の使用を前提としつつも公平な社会を築くために技術者・民間企業・政府がいかなる働きかけをすべきか、考える。技術の進化が人類に幸福をもたらし、有益かつ持続可能なものとなるよう、自身の学ぶ分野の知見を活かしながら、答えなき問に対峙し議論のできる者を歓迎する。
コミュニケーションはあらゆる場面で重視され、「伝え方」に関連する書籍も数多く出版されている。多様な形態をとるコミュニケーションは、過去から現在に至るまで大きな変遷を遂げてきた。近年では、機械翻訳を始めとする技術の飛躍的進歩により、言語・時間・空間の垣根を越えた会話が可能となった。一方で、感性の共有や相互理解を含む対話の質は向上しているといえるのだろうか。本分科会では、日常会話から災害時や観光における意思疎通、さらにマイノリティや社会的弱者を取り巻くコミュニケーション環境など、日米の多方面に渡る事象を切り口に、コミュニケーションの意義やこれからの姿について、領域横断的に議論する。
SNS上での情報拡散による真実の不透明化、宗教的価値観のみならず社会的・倫理的価値観に基づく正しさの再定義、商業主義やテクノロジーによる美の基準の変容。時代や文化により異なる強調がなされてきた「真・善・美」の追求の形は、物質的に満たされた消費社会の発展に伴い現代も変化している。日米におけるこの「美学の探求」のあり方に着目し、互いの文化的背景を理解することは、ステレオタイプを取り除き、より深い相互理解を促進するために不可欠である。本分科会では、異文化の認識形成に顕著に寄与する芸術、ファッション、映画、SNSといったデザイン及びメディアに反映された両国における美学の探求に焦点を当てる。そして、文化の共生と衝突を客観的に俯瞰しグローバルな文化交流を促進するツールとなる文化的感受性の涵養を目指す。
軍事力拡大を図る中国やミサイル発射を繰り返す北朝鮮など、日本を取り巻く安全保障環境は緊迫化している。一方、アメリカはウクライナやイスラエルへ支援を行っており、その影響もあって東アジア地域における力のバランスが変化しつつある。こうした状況下、食料やエネルギーの自給率が低く、他国との互恵関係を安定的に構築していく必要のある日本は、大きな岐路に立たされている。わが国が国益を確保し、同時に周辺地域の安定に寄与していくために、選択すべき道はどこにあるのか。本分科会では外交、情報、軍事、経済など様々な観点から、国益の確保や日米関係の更なる発展、インド太平洋地域の平和と安定について考察する。