【日米学生会議との出会いと参加理由】
高校在学中、カナダに留学をした時の先輩を通して日米学生会議(以下JASC)のことを知りました。1年間のホームステイであったため、英語での日常会話はできるようになりましたが、大学では英語を使って専門分野について学び、卒業後国際的な仕事をしたいと考えておりました。JASCでの経験を通して専門分野をみつけられたらと思い、応募をしました。
【日米学生会議での経験】
あまりにも強烈な経験でしたので、多くのことが印象に残っています。一生のキャリアを作る土台になりました。私は、Bioethicsの分科会に所属しており、医療倫理の問題を比較文化の視点などから議論しました。一緒の分科会に参加した人が5人のうち3人が医学部、2人が文系の学生でした。そのうちの1人もその後米国に留学して医師になりました。「アメリカの医学教育」などの著作でも有名で、そして現在国際医療福祉大学副学長の赤津晴子さんです。
JASC参加時の写真
現在に繋がるという点では、JASCのネットワークが大きいです。今でも、色々な分野の仲間が全国にいるのは、大変心強いです。私は現在大学での教育や研究に加えて、社外取締役の仕事もしています。主に大学という象牙の塔で過ごしているので、社外の仕事を引き受けるかどうか迷った時、まず最初に相談するのもJASCの友人です。
JASCでは何かを学びたいという意欲やモチベーションが似ている人たちが集まるし、世の中を少しでも良くしたいという思いを持つ信頼できる仲間ができます。40年たってもそういう志を持っていることは変わらないですし、様々な方面で皆さんご活躍されています。
加えて、年代を越えて交流できるのもJASCのネットワークの良さだと思います。現在、医療政策の本を書いているのですが、JASCの10年後輩のコンサルティング業界の方にもフィードバックもらい、一般読者にも読みやすいように大変参考になるアドバイスをもらいました。
【日米学生会議の議論の様子】
日米学生会議に参加していた米国側の学生はほとんどが全米トップ大学からの学生でした。バブル直前で日本への関心が一層増していた時期でした。とはいえ、話してみると日本の学生のレベルと大差なく、この肌感覚はその後国際社会で学んだり働いたりする上で大きな自信となりました。
日常会話レベルの英語はホームステイの経験もあるため大丈夫でしたが、その上で専門性や核になるような力の必要性も感じました。文系の学生として、何が自分の核となりうるか、少し不安もあったと思います。
さまざまなテーマに関して忌憚なく議論することが出来、とても楽しかった事を今でも覚えています。マナーの本などを読むと、食事中に政治と宗教の話はしてはいけない、とありますが、そうしたことは一律で決められることでなく、その場の状況をみながら、何を話題にすると良いのか、良くないのか、JSACでの経験で気付かされました。
本会議中に色々なバックグラウンドの学生と話したり、通常だとなかなか訪問できないようなところを見学するなどの経験を通して、将来は国際機関で働きたいと思うようになり、キャリアの考え方にも大きく影響を与えた経験だったと思います。
【大学卒業後のキャリアと日米学生会議での経験・繋がりが生きた場面】
私は雇用機会均等法の一期生で、女子学生でもとても就職がよかったです。日本の企業で働くイメージがわかなかったので、外資系企業での就職も考えたのですが、金融やコンサルの分野にあまり関心を持たなかったのです。そのような時、ICUの卒業生で当時スタンフォード大学教授が1年間ICUで訪問教授として赴任されました。統計学と計量経済学では世界的に著名な先生でした。その先生から、統計学を学ぶうちに、アメリカの大学院で経済学を学びたいという気持ちが固まりました。ロータリークラブの奨学金で、卒業した年の夏に渡米しました。私は元々開発経済、貧困分析に関心があり、また当時アメリカの開発経済は、中南米に関する研究が盛んでした。私はボリビアの家計調査のデータを使った博士論文を書きました。ボリビアは、当時乳幼児死亡率が高く、寿命も低いなど、医療政策の重要性が指摘されており、世界銀行による詳細な調査が行われていてデータが豊富にあるにも関わらず、分析している人がほとんどいませんでした。こうした背景のもと、世界銀行のデータを用いて医療分野に関して分析することになりました。ボリビアでは長崎大の熱帯医療の研究所の先生と一緒に働いたり、またいろいろなところでJASCの時の友人との接点もありました。
大学院在学中に、世界銀行で2年間働く機会もありました。世界銀行で働くのは学生時代からの夢でしたが、実際働いてみるとかなり官僚的な組織だと思いました。世銀ではデータが豊富ですし研究環境にも恵まれていて良いところも沢山ありましたが、長いキャリアでずっと官僚的な組織で働くのはどうかしらと感じました。自分はそうした組織よりは、日本の若い人に経済学のおもしろさや経済学を学ぶ重要性を伝えたいと思うようになりました。
また当時、八田達夫先生(ICUの先輩、ジョンズホプキンス大・東大:経済)や伊藤隆敏先生(一橋大・東大・コロンビア大:経済)が、IMFや世銀にいらしていて、もっと日本の制度を勉強して、日本の失敗も学んだ上で途上国にアドバイスをした方が役に立つと言われました。そのような折、ちょうど横浜国立大学からお話を頂き、1995年に日本に戻りました。研究を進めるうちに、少子高齢化を迎える日本の医療制度に危機感を頂くようになり、それ以降日本のことをより中心に仕事をしています。
一橋大学で担当されている留学生プログラム卒業式の写真
【今後の会議に参加を希望する学生に向けてメッセージ】
ぜひ視野を広くして欲しいと思います。一橋の私の学部ゼミでも、ゼミ生は主に首都圏・中高一貫出身、とバックグラウンドが似ている学生が多く、考え方が同質的です。海外留学などを通して異質な文化や背景を持つ学生との交流を深めてほしいと感じます。JASCでは同質ではない考え方に触れる経験ができます。
これから、世の中がどうなるかわかりません。私の母親は、10代で第二次世界大戦を経験していて、一夜にしてお金の価値がなくなる経験をしていました。私がずっと教えられてきたのは、自分に身につけたものが重要だということです。友情、知識、経験、語学、雑談力などは一度身につければ無くすことはほとんどないと思います。最近ではGoogle 翻訳やChat GPTがありますが、日常会話で話題をどう見つけるかなどのコミュニケーション能力は日々の経験の積み重ねしかないと思います。こうした能力は、世代を超えて重要なのではないかと考えています。
コロナ禍があって、ZOOMなどのビデオ通話も発達し便利になりましたが、対面で会う事によって生まれる喜び、その場の匂いや気配などを感じることも大事です。学生の皆さんは、対面とオンラインの良さを両方理解している世代です。JASCでの経験を何倍も楽しめると思います。